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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1026号 判決 1949年3月05日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人森武喜上告趣意第一點について。

仍って原審第一回公判調書を檢するに、その末尾に「辯護人は被告人の有利のため種々辯論し寛大なる裁判を願い度いと述べた」との記載のあることは正に所論指摘のとおりである。然し(1)本件は所謂必要的辯護の事件(舊刑訴第三三四條)ではないこと。(2)一件記録中原審では辯護人選任届の提出のないこと。(3)辯護人に對する呼出手續又はそれに該當する手續等一切行われた證跡のないこと。(4)右第一回公判調書中前示の記載はあるが辯護人が出頭した記載のないこと。(5)該調書の用紙は所論指摘の文言が謄寫刷の不動文字に成れるものが使用されあること。以上の諸點より之を勘案すれば、所論調書指摘文言の記載は、通常辯護人が附されその辯論が爲される事件の公判調書に用うる場合の用紙を、辯護人の附されざりし本件の公判調書に充用しながら、誤ってこの部分の文言の抹消を遺忘した關係にあるものであることは、之を十分に窺うことが出來るのである。而して公判調書に矛盾した記載や不明確な記載が爲されてある場合には、他の資料に據ってその正誤を判定解釋することは毫も違法ではないのである。從って他の資料に據るも尚その調書記載の矛盾や不明確、即ちその記載の正誤が判定解釋がつかず延いて問題の點について、公判手續の適正に行われたことが證明されず、然かもその事項が原判決破毀の原因となるものである場合において、爰に始めて當該公判調書の記載の不完全が判決に影響を及ぼすものと解すべきである。然らば本件における所論指摘の公判調書の記載は、前示説明の如く他の資料に據って、抹消すべき文言を抹消せざりし誤記であることが判定解釋出來るものである以上、之をもって原判決を違法とし破毀せらるべきものであるとの所論は理由なきものと謂わねばならぬ。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由に依り、刑訴施行法第二條並びに舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

此判決は裁判官全員一致の意見に依るものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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